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Fumi Kobayashi


Dollar for Pound


Episode - DOG

 今まで出会ったホームレスの中で一番僕の好きなホームレススタイルを持っていたオヤジの話をしよう。
 このオヤジの名は ‘DOG’ といって、初めて道の上であった時からノリがよかった。とにかく笑顔が多く楽しそうで、道を歩けばそこらじゅうのホームレスから名を呼ばれる。歩き方から表情から体全体で前向きなそんなやつだ。
 一回、DOGと待ち合わせをした事がある。とある交差点で夕方4時に、という約束だったのだが20分近く待っても一向に姿を現さない。やっぱり、ホームレスと待ち合わせをするのは無理があんのかなと思っていたら、ひょっこり現れた。
 どうやら必需品のカート(スーパーのタイヤ付買い物カゴ)をなくしたらしい。
 彼らにとってカートが無いということは一大事である。ストリートから物を拾い集めるための最大の移動武器であって、これが無いということは生活能力が半減することになる。特にDOGの場合は、空き缶を拾い集めて生活費を稼いでいたので、絶対にカートが必要だ。そういうわけで僕は彼と一緒にカートを探すことになった。

 彼の頭の中にはカートが落ちてそうな場所のリストがあるらしい。まず最初に向かった所は、空き缶を金に換えてくれる換金所(その他、ビンやペットボトルなどリサイクル物を扱う事務所)だった。
着いてみてビックリしたが、おそらくそこはSkid Row地区でもトップレベルに汚いところと言えるだろう。青いビニールやベニヤ板やらで作られた8畳ぐらいの屋根付スペースに空き缶やビンが山積みになっていて、全くやる気の見られない黒人が二人、入り口近辺に座っていた。とにかく臭くて薄暗いのである。
DOGはその従業員らしきやつらと何やらしゃべっていたが、結局カートは無かったらしい。
そこを出るときに気付いたが、換金用のプライスリストが入り口に掲げてあって1パウンド(約450g)で1ドルとなっている。そういえばDOGは一日20ドルぐらい稼げると言っていたから彼は一日で20パウンド(約9kg)もの空き缶を拾っていることになる。
どこにそんないっぱい缶が落ちてるんだと聞いたら、 「オフィス街がすごいんだよ。」 と言って、ニヤッと笑っていた。にしても一日中歩き回ってのことらしい。
その後、大きなマーケットの裏口近辺や倉庫会社の駐車場、ガソリンスタンドの裏などをまわったが結局わけの分からない空き地の横でカートを見つけた。「ここには絶対あると思った。」と言っていたが、僕はその言葉を信じていない。
DOGはカートの中に入っていた物を分別し始めた。要らないものをポンポン放り出している。まあ、ほとんどが要らないものだ。しまいには使用済みの注射器を見つけて僕に向かってニヤッとしていた。
カートを手に入れた僕たちは、待ち合わせしていた場所に向かって歩いていた。もちろんDOGは抜け目無く空き缶を拾い集めている。そして、ある道に差し掛かろうとしたとき彼は、 「この道はとおりたくねえ。」 と言って別ルートを歩き始めた。
彼によれば、その道はドラッグディーラーと覆面の警察でいっぱいらしい。そして彼自身がかつてドラッグディーラーをしていた場所だそうだ。彼はディーラーだった頃、3回警察に捕まって合計3年半ジェイルに入っている。
結局それが原因でホームレスの生活をしているらしい。「金はかなり儲かるけど、もうあれをやるつもりはない。今がいい。」 と話してくれた。今、彼は空き缶を拾いながら、たくさんの友達に囲まれて自分の時間を自由に過ごしている。

こんなDOGは僕の中でスーパーホームレスだ。彼はどんな状況でもその場その場で前向きに生きているだろう。そんな自身やら強さやらが彼の顔に出ている。もし生活充実度を金に換算できるバロメーターがあるとしたら、彼は余裕で大金持ちだと思う。何とも気分の良くなるホームレスのオヤジだ。

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